「暇空茜」オリキャラ主張問題について

祭には一枚噛んでいこうの精神

最近、某一般社団法人の不正会計疑惑を追及して一躍ときの人となっている「暇空茜」氏について、せっかくなのでちょっと取り上げてみたいと思います。

件の不正会計疑惑についてはここで扱うことでもないので置いておくとして、取り上げるのは氏のアバターについてです。

暇な空白チャンネル
原作者の現在のブログhttps://note.com/hima_kuuhaku 動画作者のブログhttps://skmz.one/

こちらが氏のYoutubeチャンネルなのですが、アイコンのキャラクター、誰に見えるでしょうか?

スピーチシンセサイザーの界隈に足を突っ込んでいる人であれば迷いなく「琴葉茜」であると答えるでしょう。実際、氏の動画でもこのキャラクターに琴葉茜の声をあてています。
しかし、氏曰くこれは「暇空茜」というオリジナルキャラクターなのだそうです。

琴葉茜に見た目が似ていて、声を使っていて、ついでに下の名前まで同じだけど別キャラですとそう言っているわけですね。
そしてそのキャラクターで不正会計疑惑という政治的な話題を繰り返し取り上げているわけです。

さて、これは一見キャラクター使用ガイドライン違反あるいは著作権侵害のように思えます。
どうなのでしょうか。

まずは「A.I.VOICE琴葉茜・葵」の開発・発売元である株式会社エーアイが定めている、琴葉茜・葵のキャラクター使用ガイドラインを見てみましょう。

琴葉 茜・葵 キャラクター紹介ページ | A.I.VOICE
A.I.VOICE 琴葉 茜・葵™は、音声合成AITalk® の技術を応用した個人利用者向けソフト。さらなる人間らしさ・豊かさを追求したその音声は、また一歩人間に近づいています。
第2条(使用許諾)
1.当社は、個人又は同人サークル(法人化されていない団体に限ります)に対し、本キャラクターの二次創作物を次の態様で使用することを許諾します:①当該二次創作物及びその複製物の、無償かつ完全非商用目的での公開及び配布。②同人サークルとして行う、当該二次創作物及びその複製物の制作に係る実費を超えない程度での有償配布及びそれに伴う公開。
2.前項の定めに拘わらず、本キャラクターは、次の態様での使用をしてはならないものとします:①当社、本製品又は本キャラクターの評価・評判・イメージを著しく損なうような態様での使用。②公序良俗に反するような態様での使用。③当社又は当社が認めた者による提供である(当社の「公認」や「公式」を謳う態様での使用を含みます)との誤解を招く可能性のある態様での使用。④他者の権利を侵害し、又はそのおそれがある態様での使用。

大前提として、エーアイは琴葉姉妹の二次創作を広く世間一般に認めています。そのうえで、上記第2条の2において禁止事項を定めています。
既に気付いているかもしれませんが、上記のどこにも政治的な利用の禁止規定がありません。
「イメージを著しく損なう」というのが該当するのではという考え方もありますが、ただ政治的であるというだけでは当てはまらないでしょう。もしそうなら公民の教科書的な解説や「選挙へ行こう」という啓蒙でもガイドライン違反ということになってしまいます。もし該当すると主張するなら個別具体的な発言の指摘が必要でしょう。例えば政治に絡めて人種差別的な単語を発していたり、性差別を助長するようなことを言っていたり、などですね。

これはキャラクターだけでなく、ソフトウェア(ここではA.I.VOICEとします)のエンドユーザー使用許諾契約書も同様です。

琴葉 茜・葵A.I.VOICE 製品紹介ページ | A.I.VOICE
『A.I.VOICE 琴葉 茜・葵』は、声優「榊原ゆい」の声を元に製作したキャラクターボイスで、簡単に表現力豊かな音声が作成できるソフトです。

つまり、琴葉茜の声とキャラクターを使用して政治的な動画を作って投稿する行為それ自体にはガイドライン上何の問題もないというわけです。
逆に言えば、問題として残っているのは暇空氏がオリジナルキャラクターであると主張している暇空茜が琴葉茜に酷似しているという点だけです。

しかしこれは非常にデリケートな問題です。
そもそも、キャラクターというもの自体に著作権は認められていないという話です。琴葉姉妹で例えるなら「髪の毛がピンク色で関西弁の姉と髪の毛が青色で標準語の妹の双子姉妹」というキャラクターのアイディアそのものは著作権法上なんの保護も受けていないのです。
ですので「髪の毛がピンク色で関西弁の姉と髪の毛が青色で標準語の妹の双子姉妹」を新しく創造することは合法です。暇空氏の場合は琴葉葵にあたる存在がいないため「髪の毛がピンク色で関西弁の女の子」となり余計に安全です。
しかしそのアイディアをもとに描かれたキャラクターイラストには著作権があるため、先に描かれたであろう琴葉茜に依拠して、つまりパクって描いたのであれば暇空茜は著作権上の翻案権の侵害となりえます。
ではその翻案権の侵害となる要件ですが、有名な江差追分事件では既存の著作物に依拠しているという点の他に「その表現上の本質的な特徴の同一性が維持されておりそれを直接感じ取ることができる」という点を挙げています。
キャラクターイラストに当てはめて考えると、デザイン上の決定的な特徴が一致しており明らかに同一のキャラクターを描いていると判定されればアウトというわけです。

ここまでを踏まえて改めて両者のイラストを比較してみましょう。

琴葉 茜・葵 キャラクター紹介ページ | A.I.VOICE
A.I.VOICE 琴葉 茜・葵™は、音声合成AITalk® の技術を応用した個人利用者向けソフト。さらなる人間らしさ・豊かさを追求したその音声は、また一歩人間に近づいています。
暇な空白チャンネル
原作者の現在のブログhttps://note.com/hima_kuuhaku 動画作者のブログhttps://skmz.one/

……これ、多分似てないんですよね。
スピーチシンセサイザーのキャラクターというのは二次創作が盛んで、琴葉茜についても非常に多数のイラストが描かれています。当然描く人によって絵柄はさまざまで、それらを見慣れている私のような人間からは暇空茜を見て琴葉茜に十分似ていると感じてしまいます。
しかし、そういった二次創作イラストに馴染みがなく暇空氏に対して思うところのない人間が公式のものだけを見たならどうでしょう。服装はもちろん顔つきも違っており、類似点はそれこそ髪の毛くらいではないでしょうか。
世の中には金髪ツインテールのキャラクターが山ほどいますが、それらをすべて先行作品のパクリという人はいないでしょう。琴葉姉妹の髪型も、単なるストレートと比べたらいくらか特徴的ですが、それが本質的かというと微妙な気がします。
似ていることは似ているけれど、パクリというほど似てはいない、というところではないでしょうか。

とまあ、ここまですべて素人がちょっとググっただけのにわか知識と感覚的な話ですので、あまり本気にはしないでください。
暇空茜が琴葉茜のパクリかどうか、最終的に判断を下せるのは裁判所であって、そこへ話を持ち込めるのはエーアイだけです。著作権侵害は親告罪であり、ガイドライン上でも違反かどうかの判断はエーアイ独自の裁量によるとしていますので、もとより外野が口を挟める問題ではないのです。

ただ、こういうものをネット上の雰囲気に乗っかって叩くのは表現の自由的にあまりよろしくないかなと思ってここでは合法という論調にしてみました。
実際にどうなるかはエーアイから何の声明も出ていない現状まったくわかりませんが、むやみに攻撃的にならず静観しているのが賢いのかなと思います。

以上です
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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