脱・PSDのすゝめ
みんなでやめればこわくない……?
PSDとは、Adobeの画像編集ソフト「Photoshop」の専用ファイル形式です。いわゆる普通の画像ファイル(PNG、JPG等)と違って1枚の画像だけではなく、レイヤーをはじめとした編集に必要な様々な情報を保存したファイルで、Photoshopで画像を編集する場合は通常この形式で保存しながら作業を行います。
基本的にPhotoshop以外の画像編集ソフトやビューアでは開くことができませんが、一応仕様が公開されているため読み込みや編集に対応しているソフトも多く存在しています。
対応しているソフトが多いためか、PSDはインターネットを介した画像データの受け渡しにも用いられることが多々あります。
例えばコミッションプラットフォームのSkebではデータの納品にPSDを用いることが強く推奨されています。個人的に身近な例としては、合成音声動画に使用するキャラクターの立ち絵素材がPSDで配布されていることが多いです。
さてこのPSD、本来そういったデータの受け渡しに使用することには問題があります。
いくつか問題点はありますが、一番は互換性でしょう。結局PSDはAdobeの独占的なファイル形式であり、仕様が公開されていると述べましたがそれは不完全なもので、対応しているソフトというのは実際はPhotoshopが出力したPSDを解析して仕様を推測して実装しているに過ぎません。そのため対応を謳っている画像編集ソフトAで作成・保存したPSDを別の対応している画像編集ソフトBで開いた場合、正常に読み込めないことがあります。
一見便利なPSDですが、このような危険を孕んでいるのです。
PSDを便利使いすることが結果的にAdobe製品への囲い込みを強化するという問題もあります。PSDを編集するならやはりPhotoshopが一番都合がいいいので、PSDがデータ受け渡し形式の事実上の標準となってしまっている現状、どうしてもPhotoshopを購入・学習する方向へのインセンティブが働きます。そうすると余計にPSDが「使えて当たり前」となっていく負の循環が起こるのです。
インターネット上ではAdobe製品のサブスク価格について「Adobe税」などと揶揄する声がありますが、それを言いながらPSDを便利使いする人間がいるとしたら、それは大きな矛盾でしょう。
さて、ではこの問題をどうするか。
一番いいのはPSDのデータ交換形式としての使用を全員が今後一切やめることです。PSDを本来そうであるようにPhotoshopの内部的な編集形式として扱い、外部とのやりとりには別の形式を使いましょう。
と言って、じゃあレイヤー情報を持った画像編集ソフト用のファイル形式が他になければそれもかなわないという話です。当然、別の画像編集ソフトの専用形式を使うのでは同じことですから、特定のソフトによらない共通の形式が必要でしょう。
候補はあります。ORAといいます。
これは特定の企業に依存せず、仕様が完全に公開されている、レイヤー付き画像交換用のオープンな標準を目指して作られているファイル形式です。GIMPやKritaなどのソフトで既に対応がされています。
今後はこのORAを画像のやりとりに使えばいいのです。
とはいえ、ORAにも問題がないわけではありません。というか、問題がなければとっくに共通形式として広まっているはずですね。
まず、機能がまだまだ開発途上であり、あまり高度な編集内容を保存しておくことはできません。現状だと本当にレイヤー付き画像ファイルといったところです。それでもPSDの用例からすれば十分ではあると思うのですが。
それから、現状Photoshopを含めたいわゆる普通のプロプライエタリなソフトでは対応がされておらず、それらのソフトで作成したファイルは対応ソフトを介して変換をかける必要があります。直接読み込めない形式で作られている場合は手動で移し替えが必要ですから、結構な手間です。
いっそKritaあたりにお絵描き環境自体を移行してしまえば楽ですが、まあそうもいかない事情は各々持っているでしょう。
そういうわけでORAの普及にも色々と課題があります。
ですがもし、一部の人間だけでもORAを使うようになれば、それが実績となってどこかで誰かの目に留まり対応ソフトが増えるかもしれません。納品対象のファイル形式に含まれるようになるかもしれません。それが追い風となってORAそのものの開発も進むでしょう。そうすればまたORAの使用者が増え、と正の循環が起こることが期待できます。
一朝一夕になることではありませんので、当分は配布ファイルにPSDとORAを同梱するという形でもいいです。説明テキストにORAのことを一筆書いてもらえれば十分です。
その一手が脱・PSDのための小さな、しかし重要な一歩になるのです。
以上です
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