合成音声キャラクターは共通ガイドラインの夢をみるか?

二次創作ガイドラインの共通化についての考察

前置き

麺処きずな炎上問題以降、合成音声界隈が揺れています。
特に、事態を収束させる力が各公式に不足していることが改めて浮き彫りになったために、見切りをつけて去っていくという人もいるようです。

なぜこんなことになってしまったのかといえば、第一には悪意を持って行動した人物が複数いたことが原因ではあるのですが、構造的な問題として「合成音声界隈という大きなくくりの中に公式が複数いて分散している」というところも遠因の一つではないかと思っています。

結月ゆかり及び紲星あかりについてはVOCALOMAKETS、東北三姉妹やずんだもんは合同会社SSS、といった具合にキャラクターごとに権利を持っている公式が分かれており、方針も異なっているため界隈の問題に対して足並みをそろえてあたることができていないようです。

この構造的な問題を解決する方法として、例えば「合成音声キャラクター運営協会」のような団体を設立して加盟各社が連携できる体制を構築するということが考えられます。他社のキャラクターについて起きた問題であってもそれに対する声明を個別に出したり、あるいは協会としての見解を発表したりといったことができればそれなりに秩序の維持に貢献できるのではないでしょうか。

それから、キャラクター利用についてのガイドラインが各社まちまちなのも利用者にとってわかりにくく、悪用される間隙にもなりえています。
そこで、団体設立までいかずとも各社が共通のガイドラインを運用できないか、ということを考えてみます。

共通ガイドラインの骨子

共通ガイドラインといっても、各社で目的や考え方が違いますので、完全に共通化することは難しいでしょう。
そこで、最低限一致する部分についてを共通の原則とし、それ以外を特記事項として各々追加できるという形にするべきかと思います。ある特記事項が各社で一致するようになればそれも原則に盛り込むよう改定するという運用が想定されます。

許諾内容

まず、利用者に許諾する内容として必要不可欠なものがあります。

それは「非商用の二次創作同人活動を無申請で許可する」というものです。

この十数年間に亘って、合成音声キャラクターが人気を博すに至ったのは活発な二次創作に支えられてのことですし、そもそもガイドラインを制定するのはそのためなので、これがなければ始まらないでしょう。
「無申請」としているのは二次創作とはそういうものですし、公式が申請の受付に業務を圧迫されてはいけないと考えてのことです。

問題は「非商用」という部分で、これはお金も絡むので境目の判定が難しいです。
一応、概ね各社のガイドラインで共通していることとしては、実費回収目的での同人誌・グッズ等の有償頒布や動画投稿サイトでの収益化などは非商用に該当します。

商用利用については、基本的にはガイドライン外のこととして要相談となるでしょう。東北ずん子・ずんだもんプロジェクトのように一定の条件を設けて非商用と同じように無申請で許可するという形もありますが、それは特記事項となります。

それから、昨今の騒動によって考えなければならなくなった点として、二次創作の立ち絵素材等の三次利用があります。
これについては「素材である」と明記したものについて公式ガイドラインに準拠した利用を許可するというのがよいでしょうか。
例えば二次創作の立ち絵を使用して「結月ゆかりによるゲーム実況動画」を作成して収益化する、あるいは「紲星あかりがレシピを解説する料理本」という体裁の同人誌を有償頒布する、などが考えられます。
個別に利用目的を制限したい場合は二次創作者本人が利用規約を制定するという形になります。

禁止事項

まず禁止するべきは反社会的行為への使用でしょうか。
合成音声キャラクターの性質上特に個人への誹謗中傷などが個別に禁止されている場合が多いですが、誹謗中傷は侮辱罪や名誉毀損罪に該当する可能性のある立派な反社会的行為です。
ただ、ここで注意するべきは表現の自由との兼ね合いです。例えばキャラクターが作劇上犯罪行為をする描写があるような漫画や動画は、教唆や扇動が含まれなければ表現の自由として認めるべきです。逆に言えば教唆や扇動は禁止とするべきでしょう。

エロやグロはキャラクターの設定年齢が未成年なことが多いことも考えると、原則禁止としておいたほうが安全ではあります。
ただし、公式がミュートワードを設定して検索よけを行なうという形でグレーゾーンではあっても実質的な許可を出している例もあります。
共通化にあたっては、原則禁止でミュートワードを特記するという形になるでしょうか。

政治や宗教はどうでしょう。
どちらも生活に密着したものであるので、一律禁止してしまうと例えば「選挙に行くことを啓蒙する動画」「寺社仏閣を参拝する動画」などが排除されてしまいます。
かと言って自由にしてしまえば各所で荒れることは必至でしょう。
「特定の政治・宗教団体を思想的に支援する行為」あたりを禁止するのが落とし所でしょうか。

公式・公認であると誤解させるような利用や、素材の再配布等については、留保なく禁止でよいでしょう。

キャラクターのイメージを毀損する行為については、エログロのように原則禁止、運用で実際の判断を行なうというのがよいでしょうか。

二次創作者の権利を守るため、著作権などの権利侵害についても禁止を明記しておく必要があります。

実際のガイドライン文面

さて、ここまでを踏まえて実際のガイドラインがどのような文面になるかを「東北ずん子・ずんだもんプロジェクト」の東北三姉妹とずんだもんを例に書いてみます。
※見た目の便宜上引用の形にしますがあくまで私が考えた架空の文面なので誤解なく

第一条(定義)
本ガイドラインにおいて「本キャラクター」とは合同会社SSS(以下「当社」とする)が権利を有する、製品及び販売促進物において使用されている一切の画像、デザイン、名称「東北ずん子」「東北イタコ」「東北きりたん」「ずんだもん」を指します。
本ガイドラインにおいて「非商用」には実費回収目的での作品の有償頒布や動画投稿サイトでの収益化を含みます。

第二条(許諾)
当社は、個人または同人サークル等の集団が行なう本キャラクターの非商用の二次利用及び二次創作を許可します。その際、当社への申請等は必要ありません。
特記:東北6県(青森・秋田・岩手・宮城・山形・福島)に所在する企業、公共団体、個人または同人サークル等の集団に対しては、その所在を明記することにより商用利用を許可します。

第三条(二次創作の三次利用)
本キャラクターの二次創作について「素材である」旨を明記した作品を三次利用する際には、作品の利用規約に特別の記載がない限り前条の規定が準用されます。

第四条(禁止事項)
・本キャラクターの反社会的行為及びその教唆への使用を禁止します。
・本キャラクターの性的な二次創作を禁止します。
 特記:括弧内の単語を付した作品については検索よけを実施し、関知しません(コッショリ)
・本キャラクターに対する肉体的に残酷な二次創作を禁止します。
・本キャラクターの特定の政治・宗教団体を思想的に支援する行為への使用を禁止します。
・本キャラクターの二次創作について、当社公式あるいは公認であると誤解を招く表記を禁止します。
・当社が配布している本キャラクターの素材の再配布を禁止します。
・著作権等他者の権利を侵害する行為を禁止します。
・本キャラクターのイメージを著しく損なう行為を禁止します。
特記
・本キャラクターの原作が判別できなくなるような二次創作を禁止します。
・本キャラクターのいわゆる情報商材の販売への使用を禁止します。
・その他当社が本キャラクターの権利を守る上で必要と判断した場合、個別に使用の禁止を求めることがあります。

こんな感じでしょうか。
一応東北ずん子・ずんだもんプロジェクトのガイドラインを見ながら書いていますが、順番が入れ替わっているところもあるので抜けや漏れがあるかもしれません。ただ、このような書き方になるというイメージです。
社名とキャラクター名、特記部分を書き換えれば他に転用できる、ハズです。
ここはもっと具体的に、とかもっと単純化できる、とかあればご助言をお願いします。

まあ、個人でこんなものを考案しても公式各社が動いてくれるわけではありませんが、こういうのは意見を出すことに意味があると思いたいです。

おわりに

ガイドラインについて色々考えてはみましたが、結局は公式がそれをどう運用するかが問題なのですよね。具体的には違反しているイラストや動画への権利者による削除という行為がどこまでできるかです。
違反の監視にしても削除申請するにしても人手が、もっと言えばお金がかかりますので無理は言えませんが、各社連携してどうにか頑張っていただきたいところです。

以上です
ここまでお読みいただきありがとうございました。
よろしければ購読をお願いします。

購読 Pixel&Voxel

最新の投稿を見逃さないように。サインアップするとメンバー限定記事へアクセスできます。
jamie@example.com
購読