ドット絵の起源
歴史へのリスペクトは大事ですよね
先日開催が告知されたとあるドット絵イベントの公式サイトに、以下のような文章がドット絵の説明として載っていました。
1990年代頃からゲーム文化の発展と共に生まれた、コンピューターグラフィックを中心としたアートスタイルの総称。現在ではデジタルに縛られず様々なドット絵のアートスタイルが生まれ、日本独自の発展を遂げています。
このそう長くもない文章に最低二箇所のツッコミどころが存在します。
まず「1990年代頃」と言った場合は日本語的に1990年より前には遡らないと思われるので、80年代以前のドット絵文化を完全に無視していることになってしまいます。
また「日本独自の発展」というのも近年のドット絵再流行に欠かせなかったであろう海外のインディードット絵ゲームの存在を無視していることになります。
主催者の方も問題を認知されたようで、既に公式サイトから文章は削除されています。
ですが、せっかくなのでここではドット絵の起源というものについて遡れるだけ遡ってみたいと思います。
ドット絵とゲームの関係性
まず、現代ではビデオゲームから独立した芸術の一形態としても認知されていますが、ドット絵がビデオゲームとともに発展してきた時期があったことは疑いようがありません。
1990年代半ばに発生した日本の家庭用ゲーム機産業におけるいわゆる「次世代機戦争」の後、急速に業界全体が3Dへ傾倒していったために一度衰退し、その後再評価されて現代にいたるわけですが、では1990年代前半頃の状況はどうだったでしょうか。
1990年代
1990年といえば任天堂のスーパーファミコンが発売された年であり、従来の8bitマシンとは一線を画すスペックで表現の幅が大きく広がりました。
その後1994年にソニーのプレイステーションやセガのセガサターンが発売され、業界のメインストリームは3Dに取って代わられるわけですが、それでもこの時期はスクウェアソフト(現スクウェア・エニックス)を始めとしたソフトメーカーのドット絵技術はひとつの到達点にあり、今でも当時の作品についてはそのクオリティが高く評価され、しばしば「ロストテクノロジー」などとも評されます。
1980年代
1988年にはスーパーファミコンに先行する形でセガから16bitマシンのメガドライブが発売されています。その前年にはNECからPCエンジンも発売されており、これはCPUが8bitでありながらグラフィック処理に16bit長の命令が使えるということで画面の表現自体は16bitレベルでした。
これらのマシンにはのちにCD-ROMドライブが周辺機器として発売され、大容量のグラフィックやサウンドを実現しています。
さらに遡って1983年に出たのが任天堂のファミリーコンピュータ(ファミコン)です。よくファミコンは当時既に枯れた技術で作られた低価格のマシンだったと言われることがありますがこれは正しくなく、同じ時期に発売された他の家庭用ゲーム機と比べてもずば抜けた性能を持っていました。
これだけ各社から当時としては高性能なゲームマシンが出ていたのですから、グラフィック表現も既にかなり進歩していたと言えます。もちろんすべてドット絵ですから、まるまる無視できるようなものでは到底ありません。
また当時一般に流通してはいませんでしたがそれらゲーム機のためのドット絵エディタというものも当然存在していました。
1970年代
ではファミコンが発売されるよりも前はどうでしょうか。
そもそも家庭用ゲーム機というものは、少なからず「ゲームセンターのゲームが家で遊べる」というのが売りでありました。つまり、家庭用ゲーム機の前にアーケードゲーム機が存在しています。
有名なものとしては1978年にタイトーから発売されたスペースインベーダーでしょう。大流行によって社会現象を巻き起こし、インベーダーのドット絵は現在でもタイトーの代表的なマークとして認知されています。
さて、難しいのはさらにそれ以前でしょう。アタリのポン(1972)は点と線だけのごく単純なグラフィックでこれをドット絵と呼べるかどうかは微妙なところですし、さらに遡ったコンピュータゲームの祖であるMITのスペースウォー!(1962)はオシロスコープに描画されていましたからこれもドット絵という感じではなさそうです。
結局のところ
じゃあ結局ドット絵の起源はどこにあるんだというと、ポンからスペースインベーダーの間のどこかということになるでしょうか。ですので最も遅く見積もって1978年ということになります。
冒頭の文章にある「1990年代頃」からは少なくとも10年以上遡ることが可能ということです。
冒頭の文章がどういった経緯で書かれたのかはわかりませんが、文化には歴史が付き物なのでその基本的な部分の認識は正しく持っていてほしいと思います。
反面、そういった歴史を知らない人も楽しむ文化になってきていると考えるとドット絵が一時期から比べて着実に復権していることに対する感慨もあります。
今後も盛り上がりに水を差さない程度に正確な情報発信を心がけていきたいと思います。
以上です
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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