分散SNSとは?

何が分散しているのでしょう?

分散SNSについての関心事を語る前に、まずは「分散SNS」そのものについての説明からはじめましょう。

そもそもSNSとは

そもそもSNSが何なのか、と問われて適切な説明ができる人はどれだけいるでしょうか? Twitterのような? Facebookのような? もしそれらを全く知らない人がいたらどう説明しますか?

SNSの正式名称はSocialNetworkingServiceです。日本語に訳すのは難しいですが、あえて表すなら「社会的つながりを作るサービス」といったところでしょうか。
基本的にはインターネット上で会員制のコミュニティを形成するサービスを指します。会員制などと言うと高級サロンのように聞こえますが、メールアドレスとパスワードでアカウント登録をするのも立派な会員制です。
TwitterやFacebookが有名ですが、redditのような記名式の掲示板もSNSの一形態ですし、このブログにしても購読してメンバーになればコメントができるようになるので広義のSNSと言えるかもしれません。
なんにしろ、中核にあるのは人と人とのつながり、コミュニケーションです。

分散SNSは何が分散しているのか

それでは分散SNSとは何でしょうか。
SNSが人同士集まってコミュニケーションをするためのものであれば、分散という語は少しちぐはぐに聞こえます。いったい何が分散しているのでしょうか?

ヒントは英語名称にあります。分散SNSの分散は英語で”decentralized”です。これはより直接的に訳すと「非中央集権」というような日本語になります。
中央集権でない、権力が中央に集まっていない。つまり分散しているものとは権力です。

権力というとちょっと物騒な単語ですが、どんな場であれコミュニティには秩序が必要であり、それを作り維持する役割を持った人間=権力者がいるものです。
たとえば日本という国家で考えると、政治家が法律を作り、役人がそれを運用することで秩序が保たれています。
インターネット上のコミュニティの場合、基本的にはサイト管理者がそのまま権力者です。管理者としてシステムを自由にできるということは問題のある(あるいは単に気に入らない)構成員をアカウント削除によって追放することが可能です。これはとても強い権力です。

分散SNSの権力が分散していることを理解するには、分散SNSの構造を理解する必要があるでしょう。
分散SNSは「分散SNS」という単一のサービスが存在するわけではありません。企業から非営利団体、個人までそれぞれが運営主体となった中小規模のサービスがいくつも集まりつながってできる大きなネットワークなのです。
個々のサービスは単体でも存在しうるひとつのSNSで、互いに資本的なつながりのようなものはありません。それらが同一のプロトコル(通信方式)を使用することで接続し、たとえばとあるSNSに登録しているユーザーが他のSNSに登録しているユーザーに対してサービスの垣根を越えてフォローして投稿を閲覧するということができます。
個々のSNSには当然管理者という名の権力者がいますが、その権力はサービスを越えて適用されることはありません。ネットワーク全体で見れば、その全部に権力を持つ人間はおらず一部の領域にのみ権力を持った人間がサービスの数だけ存在するということになります。
これが権力の分散です。

中央集権SNSでは何が起きるか

分散SNSが=非中央集権SNSであるということは、それとは逆の「中央集権SNS」が存在するということです。
Twitterはその典型です。TwitterというSNSは(法律には従う前提で)Twitter社が独自に決めたルールによって運営されており、アカウント登録している億を超える膨大な数のユーザーは全てその支配下にあります。
従う者が多ければ多いほどそのルールは強力になり、Twitter社の持つ権力も増大していきます。
そして大きすぎる権力はしばしば暴走を生みます。あなたがTwitterを使っているなら、理不尽な理由でアカウントを凍結されたという人の話を一度くらいは耳にしたことがあるでしょう。そうでなくても近年のTwitterはおすすめユーザーやトレンドを押し付けてくる、広告まみれのひどく使いにくいSNSになっていますが、ユーザーにその方針をやめさせるすべはありません。
だからといってTwitterを今更やめられるかといえば、多くの人は「みんなが使っているから」「そこでつながっている人がいるから」という理由でやめられないのではないでしょうか。
その「みんな」や「つながっている人」はTwitter社があなたへ利用を強制するためのいわば人質です。
中央集権SNSにはそうしてやめることすらできず権力者に唯々諾々と従わされるリスクが存在しているのです。

分散SNSはどうか

翻って、分散SNSはどうでしょうか。
分散SNSはいくつものSNSが集まったネットワークであるとすでに述べましたが、接続しているサーバのどれにアカウントを登録しても同じネットワークに参加できます。
このことは、ユーザーの権力からの自由をある程度保障してくれます。
たとえば、なんらかの不幸な行き違いによりアカウントを凍結されてしまったとしましょう。中央集権SNSではそれで終わりですが、分散SNSでは他のサーバにアカウントを作り直すことでネットワークへ参加し続けることができるのです。
もちろん、コミュニティの規約に対する違反を繰り返しながらサーバを転々とするような使い方はするべきではありませんが、一度の間違いで永久に道を閉ざされるというのも酷な話でしょう。

また、分散SNSは知識と資源と労力によっては個人でサービスを作ることもできるため、ネットワークへ接続するために自分専用のSNSを作る=自身が権力者になるという道もあります。

いろいろな分散SNS

ここまで単に「分散SNS」としてきましたが、それにはやや複雑な分類があります。
というのも、ネットワークを構成するためのプロトコルが複数存在し、また個々のSNSを構成するソフトウェアも複数存在するからです。
これは原則としてプロトコルの数だけネットワークが存在するという話ですが、分散SNSプロトコルの標準は「ActivityPub」というもので、現在は主にこのプロトコルを使用したサービス同士のネットワークが「分散SNS」と呼ばれています。

ソフトウェアについては、ActivityPub対応のものだけで
・Mastodon(マイクロブログ)
・Pleroma(マイクロブログ)
・Misskey(マイクロブログ)
・Friendica(SNS)
・Hubzilla(SNS)
・Pixelfed(画像共有)
・Peertube(動画共有)
など他にも多数存在します。中には複数のプロトコルに対応しているソフトウェアもあります。
Mastodonという名前を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか? ”Mastodon”という単一企業によるサービスだと思っている人も多いかとは思いますが、Mastodonは分散SNSの一部です。
私のこの記事を読んだ人はPleromaという名前を覚えているかもしれません。私が運営するPivoxもまた分散SNSの一部です。
PeertubeはYoutubeのような動画投稿サイトのためのソフトウェアですが、れっきとした分散SNSの一種でMastodonなどからも動画を視聴したり動画にコメントをつけたりすることができます。
プロトコルさえ同一であればソフトウェアの機能は自由であり、分散SNSとは見ようによってはTwitterにFacebook、InstagramやYoutubeまでが全てひとつにつながったサービスのようなものとも言えます。
これらのソフトウェアは基本的にオープンソースで開発されており、誰でも自由に使えて開発に参加することもできます。

集中から分散へ

結局のところ分散SNSとは「単一の企業によらない草の根的SNS」であると言えます。
ソフトウェアがオープンソースであるということもあって住人の中にもOSSの開発者や利用者が多く、文化的に近い部分が多々あります。

プロプライエタリなSNSとはまた違った強みと魅力を持っていますので、興味があるかたは試しにどこかのサーバへ登録してみるとよいでしょう。
ただしOSS界隈と同じく基本は全部自分でなんとかするものなので、サーバ選びは慎重にしてください。

以上です
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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